日が落ちるのが早くなって、少しずつ長くなってきた秋の夜。
虫の音を聞きながらゆっくりと読書の時間を楽しみませんか?
秋に読みたいおすすめの純文学3選(中編)をご紹介します。
「風立ちぬ」 堀辰雄
堀辰雄「風立ちぬ」を初めて読んだのは中学3年生のときでした。学校の課題として読んだのですが、ガラス細工のような綺麗で繊細な文章、清流のように滑らかで透き通った情景描写。その美しさに衝撃を受けたのを覚えています。小説という名の芸術作品。これぞ純文学です。
白樺、高原、小鳥のさえずり、移りゆく季節と静かに近づく死の影。張り詰めた糸のような緊張感。
風立ちぬ いざ生きめやも
静かに、そして強い意志と希望が込められた言葉。切なくも美しい物語と季節を経て移り変わる高原の情景描写が見事に融合した作品です。
「眠れる美女」 川端康成
崖の上に立つ小さな家で繰り広げられる艶かしくも怪しい世界。朽ち果てた世界観と狂気的かつ神秘的な退廃の美。神聖かつ邪悪。好奇心と背徳感と死の匂い、閉塞感が作品全体を包んでいます。最初に読んだとき、あれ、なんだこれやばい!と思いました。笑
そして読後感の恐ろしさが後を引きます。引きまくります。こわい。救われない。
でもどことなく品があるのは、繊細な心理描写と文章の美しさゆえでしょうか。強烈な芸術作品です。好みがはっきりと分かれそうですが、普通の小説に飽きてしまったひとにおすすめします。
「雁」 森鴎外
高利貸しの妾になった女性の自我の目覚めと儚い恋を描いた作品。季節とともに移り変わる東京の景色と一人の女性の心の成長と葛藤、切ない結末が読んでいてなんとも心苦しく哀しくも美しい。
最後の方は歯痒くて、焦ったくて、「ちょっと岡田!頑張って!」と心の中で叫んでました 笑
岡田の友人という第三者の目線から語られる物語なので、心理描写も冷静で淡々としているのですが、そこが物語に哀愁を漂わせていて、主人公お玉の儚げで健気な雰囲気と合わせて作品全体に上品な美しい色合いを感じられます。原色ではない、秋の深い色合いです。
命を落とした雁=お玉の岡田への想いでしょうか。その雁を意図せずとはいえ手にかけたのが岡田とは、なんとも皮肉です。
そしてこの本を読むと無縁坂をぶらぶらと散歩したくなります。
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