究極の片思い小説。片思いの経過を赤裸々に記した作者の初期の小説です。
真面目でまっすぐな人の純粋すぎる片思い
一度も話したことがない人に恋焦がれる
近所に住んでいた可憐な女の子。一度も言葉を交わしたことはありませんが、見かけるたびに段々と気になって惹かれていき、ついに恋焦がれるようになります。女性に慣れていない主人公は理想の女性像を彼女に重ね、日に日に想いが強くなっていきます。恋に恋する青春期の初々しい片思い。今で言う“推し”の感覚に近いのでしょうか。
片思いの心理描写が見事
片思いは情緒不安定です。ついさっきまで気落ちして何もやる気が起きないと思ったら、今は気分が晴れやかになって不思議とやる気に満ちてくる。恋に翻弄されている主人公の様子が手に取るようにわかります。
ふとした瞬間に相手が頭に浮かんでくる。そこにいる未来を妄想してしまう。「もし、〇〇だったら…」を繰り返してしまう。あるあるですね。
また、作中で主人公が同窓会に参加するために彼女が暮らしている街に出かける場面があるのですが、その時のそわそわして落ち着かない様子がとてもリアルです。会う可能性が低いのに、もしかしたらどこかで会えるかも!と思ってしまう。振り返ったり似ている姿を探してしまう。そして会えなくて人知れずがっかりする。これもよくあると思います。片思い中の心理描写が見事です。
道義的なでまっすぐな故の葛藤と苦しみ
強い葛藤と自己矛盾
主人公は道義的な人です。相手の幸せを願い、相手を傷つけてまでも自分の気持ちを優先させようとは思わない、真面目でまっすぐな人です。
でも、恋はそんな真面目な人を苦しめます。
恋はエゴです。特に片思いは自分が一方的に押し付けるエゴです。相手を尊重しようとすれば自分の気持ちを抑えて律しないといけない。
相手を尊重したいけれど自分の恋も成就させたい。もし相手が自分を好いていなければ無理に結ばれようとは思わない。でも、もし相手に好きな人がいたら相手の幸せを考えて自分はきっぱりと諦められるか…?
主人公は真面目な人なので自己矛盾を伴ってより深く傷ついてしまうのだと思います。正義感が強いが故のこの苦しみが、この小説では印象的に書かれていると思います。
ちょっと危ない面も…
好きすぎるが故に時々暴走していることに主人公は気づいていない時があります。読者の多くが「それはやったらだめなやつ!」とツッコミを入れていると思います。たぶん、現実だったら普通に引かれるやつです。
題名の意味
そして、おそらく読者が想像していたとおりの結末が訪れます。本を読み終えた後、題名の「お目出たき人」の意味がより深く、強く感じられます。
色々な解釈があると思いますが、私にはただの皮肉とは思えませんでした。恋は成就しなければ全て辛く悲しい思い出なのか。真面目で道義的な人の“お目出たき”片思いは哀れなのか。
色々考えてしまいますが、この題名は第三者から見た主人公の姿であって、それが本人にとってのイコールではないのかも知れないなと思いました。
コメント