風の温度が変わった。
街の喧騒が落ち着いてきた。
夜の匂いが濃くなった。
それは秋の始まり。そんな秋に読みたいおすすめの純文学(短編)をご紹介します。いつもの秋を今年は純文学でより深く感じてみませんか?
「秋の暈」 織田作之助
夏の終わりから初秋にかけて季節が移り変わる様子を心情の変化とともに抒情的に描写した作品です。
夏から秋に変わるときに感じる、あの風の匂いの変化。夜明けの肌寒さ。金木犀の香り。景色が少しずつ移ろいゆく様子が美しい情景描写で表現されています。
あと、秋の気配をひとより早く感じられるのは、思い耽ってるからじゃなくて徹夜しているから、のくだりに思わず笑ってしまいました。徹夜が当たり前になっている暮らしに少々驚きました(笑)
「武蔵野」 国木田独歩
秋から冬にかけて移ろう武蔵野の美しさを、余すことなく透き通るような繊細で美しい詩的な文章で表現した作品です。
空が変わる、雲と風が変わる、葉が燃えるように色づく、月が輝き林の影が濃くなる、朝の霧が濃くなっていく・・・
季節の移ろいとともに絶え間なく姿を変えていく“落葉樹ならでは”の美しさ。自然の圧倒的な美を感じます。落葉樹、最高(笑)!
これはまるで“読む森林浴”のよう。秋の美しい木々をすぐそこに感じられます。風に揺れる木の葉の音も、美しい葉の色も、心地よい風も、高く透き通った空も、秋独特のワクワクするようで、でもどことなく胸が締め付けられるような切ない雰囲気も。秋の情景描写の素晴らしさを全身で浴びることのできる作品です。
「秋」 芥川龍之介
何かが壊れていく予感。やるせ無い思い。奥底に沈んでいる深い憂鬱。心を抉られるような切なさ。
三角関係の見事な心理描写と「秋」。作品全体に漂う枯葉のような乾いた世界観と、どうしようも無く割り切れない湿度の高い人間の感情とが相まって、「秋」という季節と見事に融合しています。最後のセリフがなんとも素敵です!
「ア、秋」 太宰治
〝秋は、ずるい悪魔だ〟
これを初めて読んだ時の衝撃と言ったら…!秋は随分前から隠れて準備しているという考え方、どうやったらこんな考えに辿り着くのでしょう。それに“気が付かずに”夏を楽しむものを不憫に思うという視点にただただ驚かされました。繊細な感受性を持ち合わせているからこそ感じ取ることのできるものの見方というか、文学者はやはりすごいと改めて感じた作品です。
短い文章で、厭世的な視点から見つめた「秋」を見事に表現している作品です。
「枯葉の記」 永井荷風
無花果(いちじく)の枯葉から主人公が自身の人生について思いを馳せる短編の文学作品です。季節の移ろいと人生の哀愁が、繊細な文体で静かに抒情的に描かれています。寂寞とした諦めに似たもの悲しい雰囲気にこそ宿る強烈な美しさと深い色気を見事な世界観で表現しています。後半にある詩はなんとも美しい。情景を想像しながら言葉一つ一つを噛み締めるように読むと、晩秋を体いっぱいに感じられます。あぁ、秋です(笑)!心に染み入るような、強く訴えかけてくるような秋の情景。この世界観がたまりません。
以上、秋におすすめの純文学5選(短編)でした。お気に入りの一冊が見つかれば幸いです。
コメント